コロナ禍でテレワークが急速に広まる中、オフィスや自宅とは違う場所、主に旅行先や帰省先などで自分の時間を過ごしながら仕事をする、いわゆるワーケーションが注目されるようになりました。
自然の中でマイナスイオンをたっぷり浴びながら思考を研ぎ澄ましたり、家族と旅行を満喫しながらプロジェクトを進めたり、好きな場所で好きな人と好きなように働くことができるワーケーション、一体どんな人が実践しているのか、ワーケーションを事業として展開している事例、さらに、これからの進化の方向性についてレポートします。
22.4%がワーケーションを経験
実際にどのくらいの人がワーケーションを行なっているのか、その人たちの属性などについて、Splashtopが2022年8月に実施した『ワーケーションとテレワークに関する調査』をご紹介します。(※1)
新型コロナ感染拡大防止のための緊急事態宣言が出された2020年3月からテレワークが急速に広まり、制度に取り入れる企業も増加。それから2年以上経過し、ワーケーションという働き方がどのくらい浸透したのでしょうか。
調査結果によると、テレワークが実施可能な仕事で、かつ、ワーケーションを認知していると回答した会社員の22.4%がワーケーションを経験していたことがわかりました。また、ワーケーションを予定しているという人が11.5%いました。
また、ワーケーションを経験した時期は、2022年8月が37.9%、次いで2022年7月が36.6%で、ちょうど夏休み期間中がもっとも多かったことになります。ちなみに、3番目は2022年5月、ゴールデンウィーク期間中でした。
また、ワーケーションを経験した延べ人数は、2021年から2022年の1年間で約2.2倍増加しました。
さらに、ワーケーション先に求める環境を聞いたところ、以下の結果となりました。
◆ワーケーションに求める要素
・社員層、経営層ともに「高速で安定した通信環境」が1位。
・経営層の2位は、デスクなどの「仕事に快適にできる備品機材」(46.9%)、3位がコワーキングスペースなどの「仕事に便利な設備」(46.2%)
・社員層の2位は、コワーキングスペースなどの「仕事に便利な設備」(45.0%)、3位は音がなく「仕事に集中できる環境」(41.8%)
社員層、経営層ともに、「その場所ならでは体験」や「非日常感が味わえる環境」などのバケーション要素よりも、便利で快適な仕事環境を求めるという結果になりました。
今後、ワーケーション推奨施設を展開するとしたら、通信環境などインフラの最適化、仕事が映えるインテリア、エクステリアなどをアピールすると良さそうです。
ワーケーションの現在地
では、withコロナ時代にワーケーションはどのように働き方の一部として根付いているのでしょうか。ワーケーションで理想の働き方を実現した人の事例や、人気のワーケーション対応施設などをご紹介しましょう。
平日の帰省で家族との時間をたっぷり取れた/Splashtop社員Nさんのワーケーション
Splashtop社員Nさんは、インターネット環境とスプラッシュトップさえあれば働ける利点を活かし、「先輩の結婚式参列で地元に帰省するついでに実家からリモートワークをしてみたい!」と上司に相談。すると即OKが出て、約1週間の実家でのリモートワークがかないました。
今までは大型連休のみ実家に帰省していましたが、家族との休みが合わずに一緒に出かけることも少なかったというNさん。今回のように平日に帰省できたことで、家族と有意義に過ごすことができました。
大きなモニターを持ち運ばなくても、スマホでSplashtopアプリをダウンロードして会社のPCと接続したら意外と快適に仕事がはかどったとのこと。このような身一つで実現可能なワーケーションなら、お盆やお正月などハイシーズンでの有給取得や、プライベートの予定の合間に働くことで無駄に有給休暇を取得することを避けられるかもしれませんね。こちらの記事 でも詳しくリポートしています。(※2)
ワーケーションに特化した新サービスの登場
(1) Otell(オーテル)/ワーケーション可能な宿泊施設検索サイト
ワーケーションが可能な仕事環境を保証した宿泊施設検索サイトも登場しました。株式会社ガイアックスが提供する「Otell」では、プライバシーが確保された個室、Wi-Fi、電源、机・椅子、モニター、デスクライト、テーブルタップが設置されているホテル・旅館が検索可能。ホテルの稼働率が低くなる平日プランをメインで紹介するなど、利用者、宿泊施設の双方にメリットのあるワーケーションプランを提案しています。(※3)
(2) 安心安全テレワーク施設認証/一般社団法人日本テレワーク協会
一般社団法人日本テレワーク協会と一般社団法人セキュア IoT プラットフォーム協議会は、協同で策定し令和4年4月に公表した「安心安全テレワーク施設ガイドライン)に基づき、基準を満たしたシェアオフィス、サテライトオフィス、レンタルオフィス、サービスオフィス、コワーキングスペース、フレキシブルオフィスなどのテレワーク施設を認証するプログラムをスタートさせました。(※4)
ワーク×バケーション×学びも登場
ワーケーションポータルが新しくリリースしたのがワーケーション先での「オンライン教育プラン」です。「もっと自由に、もっと学ぼう」をコンセプトに、ホテルや旅館などのワーケーション施設で、オンライン英会話やプログラミング英会話などが受講できる、キャリアアップとスキル向上を目指すビジネスマンのためのサービスです。(※5)
地方創生への活用も
「ワーケーションの聖地」を目指す宮崎県日向市の取り組みが注目されています。観光・移住政策に加え、ワーケーションで地域活性化を図ろうという同市の取り組みは、人手不足や財政難に悩む多くの地方自治体の参考になるでしょう。地元事業者による交流型体験プログラム、親子ワーケーションなど、メニューも充実しており、自治体も参加者も関連企業も、三者にとってメリットのある取り組みに、今後も期待が集まります。(※6)
これからのワーケーションの進化のカタチ
ご紹介したように、ワーケーションは、ただの「滞在型」ではなく、プラスアルファの付加価値を持たせたサービスが急増しています。まさに、利用者である個人・サービス提供者である企業・誘致など場所を提供する地域のwin-win-winの形ができつつあります。
次に挙げるのは、そんな進化系ワーケーションの一例です。
チームビルディングへの活用
株式会社ガイアックスは、ファミリーワーケーションプログラムとして、OTERA STAY(お寺ステイ)を実施、最大6泊7日の複数日程で約20名が参加しました。通常業務を実施しながら、業務時間外や週末に地元のアクティビティに参加。地元の人や他部署の家族との交流を通じ、部署横断の対面コミュニケーションを活性化させることに成功しました。協力した和歌山県勝浦市(那智勝浦観光機構)では、子ども・幼児を現地の保育園、公立小学校に受け入れ協力を行いました。
この取り組みで注目するべきコンテンツとして、お寺の活用があります。現在、全国で7万5千件あるお寺のうち、およそ1/3が空き寺であるとされており、今後の活用の可能性としても期待できるかもしれません。(※7)
ウェルビーイングへの活用
株式会社イトーキでは、ワーケーションによって仕事のパフォーマンスやウェルビーイング指標などに改善効果があると発表しました。同社がワーケーションの場所に選んだのは瀬戸内。「瀬戸内国際芸術祭2022」のパートナーに選定されたことをきっかけに、複数のグループがワーケーションを実施、その効果を測定しました。
検証の結果、仕事のパフォーマンスやウェルビーイングの改善効果は4週間持続することもわかりました。このことから、ワーケーションは個人の選択だけでなく、企業も戦略的に活用するものになっていく可能性が示唆されるでしょう。(※8)
地域課題解決型ワーケーションの拡充
ワーケーションを自社業務のみに留めず、地域の課題解決にも取り組むスタイルが注目されています。例えば、徳島県が展開している「アワーケーション」は、社会貢献に興味がある都市部の事業者を呼び込み、地域の魅力体感や地元との交流・マッチングにより、地域が抱える課題の解決や集落活性化を図ろうという取り組みです。地元住民とともに「雑穀の販路拡大」「地元産藍を使った食品開発の事業化」といったワークショップを実施するなど、地域課題の解決を、企業のSDGs、人材育成、組織力向上などに活かすことができます。地域にとっては、地域のファンを増やすことで第二の故郷として1回で終わらない継続的な関係性を構築することも狙いにあるようです。(※9)
VRやARなどテクノロジーの活用
VRやARなどのテクノロジーを活用すれば、ワーケーションで思い思いの場所にいながら、仮想空間での共同作業など、業務の幅は格段に広がります。マイクロソフト社の「Microsoft Mesh」も、そんな世界観を目指すツールの1つです。(※10)
ワーケーションは特別なものでなく、当たり前のものに
ワーケーションの現在地と、進化のカタチについてご紹介してきました。効果の高さも実証され、プログラムや関連サービスも拡充していることから、ワーケーションを新しい働き方に組み込む人は今後も増えていくでしょう。
コロナ禍の緊急対応だったテレワークが、すぐに一般化したように、ワーケーションも限られた人にとっての特別なものではなく、生産性向上とウェルビーング、ワークライフバランスを実現する手段として当たり前なものになることは、容易に想像がつくでしょう。また、それは「働く」がさらに進化するということです。
ワーケーションをまだ試したことがないという人も、今回ご紹介したような様々なサービスも参考に、気軽に試してみるのもいいかもしれません。
また、ワーケーションの進化には技術面の発達も欠かせません。次回以降、Splashtopも参加する実証実験の様子などもご紹介していきます。
出典
- ※1
- ワーケーションとテレワークに関する調査/スプラッシュトップ株式会社
- ※2
- 帰省ついでにワ―ケーション!? 実家で7日間リモートワークをしてきました!/スプラッシュトップ株式会社
- ※3
- Otell(オーテル)
- ※4
- 安心安全テレワーク施設認証/一般社団法人日本テレワーク協会
- ※5
- ワーケーション×オンライン教育プラン 「ワーケーションポータル オンライン教育プラン」
- ※6
- 【宮崎県日向市】「ワーケーションの聖地」を目指し、日向市でワーケーションの取り組みが加速/PR TIMES
- ※7
- ガイアックス・那智勝浦観光機構が観光庁「ワーケーション推進事業」のモデル企業・地域に採択/PR TIMES
- ※8
- ワーケーション効果は4週間持続!イトーキが瀬戸内での実証実験結果を公開/PR TIMES
- ※9
- 徳島県アワーケーション/徳島県
- ※10
- Microsoft Mesh (プレビュー) の概要/マイクロソフト
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