コロナ禍で急速に広まったリモートワーク。当初は感染対策のための急場しのぎだった「リモワ」「テレワ」は、ポストコロナ時代のスタンダードになりつつあり、働き方だけでなく、生活をも変えてきています。リモートワークは今どのように進化しているのか、バーチャルオフィスがどんな影響を与えているのか、事例などを参考にしながら考察します。
急速に進展するバーチャルオフィス
リモートワークが急に身近になったのは2020年のコロナ禍でした。政府の緊急事態宣言を受け、インフラが整っている企業は原則出社禁止に、また、多くの企業で仕組み化が急がれるなど、メディアでも大きく取り上げられたことは記憶に新しいと思います。
バーチャルオフィスが広まった背景と拡大する市場規模
感染対策という必要性に迫られ、急に広まったリモートワーク。働き方の利便性は高い一方で、始まってみるといくつかの課題も指摘されるようになりました。
課題1:コミュニケーションの慢性的な不足
物理的に離れていることで、ちょっとしたコミュニケーション、会話が生まれづらく、組織が活性化しづらい状況に。オンラインでのミーティングやブレストも、多少の遅延がコミュニケーションを阻害し、ストレスを生むきっかけにもなりました。
課題2:一体感や帰属意識が薄れ、生産性が低下する
協働や共創の機会が失われることで、チームワークや組織の一体感が生まれにくい状況に。その結果、自由で創造的なアイデアが生まれにくくなりました。このことでプロジェクトの推進が停滞し、結果的に生産性低下にもつながりました。
課題3:新入社員や中途社員のオンボーディングが難しい
2020年4月以降の新入社員は入社式も、新人研修もオンラインという企業が多くみられました。即戦力を期待された中途社員も現場に出ることも叶わず、社内の人間関係構築も進みづらく、彼らのオンボーディングがなかなかうまくいかない実態がありました。
これらの解決手段として、バーチャルオフィスが注目され始めました。擬似空間にオフィスを作り、デスクや会議室、休憩室など、実際のオフィスにある機能を揃え、実際に社員がそこに存在しているかのように感じられるものです。その市場規模は急激に拡大、2020年度の売上金額は3億2,000万円で、前年度から6.4倍の規模となりました。
独立系ITコンサルティング・調査会社の株式会社アイ・ティ・アールが発行する市場調査レポート『ITR Market View:ビジネスチャット市場2021』では、この規模はさらに拡大するとし、2021年度には20億、2022年度には45億、また、2025年度には180億との予測を発表しています。(※1)
バーチャルオフィス事例
ここで人気のバーチャルオフィスをご紹介します。急成長企業ということもあり、大手ベンダーに加えて次々と新規参入企業が現れています。
事例1oVice(オヴィス)(※2)
リモートワークの常駐場所や、会議などのコミュニティの場の提供だけでなく、オンラインイベントの開催など、企業規模を問わない様々な目的で利用できるバーチャルオフィス。現在トヨタ、リコー、花王、旭化成、コクヨ、浜松市、名古屋大学など、2300社以上が利用しています。
バーチャルオフィス内ではアバターが自由に動き、相手に話しかけたり、数人で会議したり、立ち話が聞こえてきたり、また、近くのアバターの声は大きく、遠くは小さく聞こえるなど、リアル空間と同じ感覚が体現できるのが特徴。もちろん、関係者以外に聞かれたくないような会話をしたい場合は、鍵付きの会議室に入って会話をすることも可能です。
いくつかのフロアを組み合わせて「ビル」としての利用もでき、30階建てのバーチャルビルで数百人が勤務するといった導入事例もあります。
■oVice活用事例1:株式会社リコー(※3)
会議室の少し無機質な背景を、プールやキャンプ場、バーベキューエリアなどに変更。オフィスとはかけ離れた空間にするだけで一気に会話が生まれました。
チャットボックスでは、拍手の音で気持ちを伝えることができます。拍手をする人が増えれば音も大きくなるなど、バーチャル空間だからこそできることと、あたかもリアル空間にいると感じられることとをうまく取り入れています。
■oVice活用事例2:メタバース宴会(※4)
会議ツールで新年会などのオンライン飲み会をしても仕事の延長に感じさせてしまったり、企画にも困って盛り上がりに欠けたりすることも。そんな企業向けに、バーチャルオフィス空間で盛り上がる宴会ソリューションを提供。ゲームや格付けチェックといった豊富な企画も用意されています。スペースは開催規模によって選定され、初めて利用する企業・団体へはバーチャルオフィス空間を楽しむための無料コンサルティングも受け付けています。
事例2伊藤忠インタラクティブ「VR VENUE」(※5)
伊藤忠インタラクティブ株式会社では、2022年度新卒内定者に向けに行ったワークショップにVR空間構築サービスである「VR VENUE」を活用しました。
また、伊藤忠本社のエントランス、執務室を、就活生や社員が来訪できる空間としてVR化し、就活生らが自由にオフィス訪問できるように工夫したり、彼らと社員とのマッチングプラットフォームも構築しました。バーチャルオフィスならではの、アバターによるハードルを下げた柔らかいコミュニケーションで、忖度のない意見交換を行うことで、就業後のミスマッチを事前に下げることを目指しました。
バーチャルオフィスで接客も?リモートワークで生まれた新たな雇用
リモートデスクトップツールを提供するSplashtopも、VRゴーグルと連携して、VR空間での勤務環境整備を計画中です。クリエイターや工場など、リモートワークが難しいと思われる職種でのリモートワーク実現を行ってきたSplashtopだからこそ、オフィスという空間を超えた幅広い職種のVR勤務環境を目指しています。
コロナ禍では正社員を中心に推進されたリモートワークも、今では派遣社員やアルバイト・パート社員にも広まってきています。また、病気や介護、高齢や距離的理由などで、オフィスで働きたくても働けなかった人の勤務を可能にしたり、リモートならではの新たな職種も生み出しています。さらに副業やプロボノを始めるハードルも下がってきています。
VRやバーチャルオフィス勤務という新しい働き方
バーチャルオフィスが広がる中で、バーチャルオフィス勤務という新しい働き方も生まれています。一例をご紹介しましょう。
1:オンライン秘書・オンラインアシスタント
コロナ禍以前から、CASTER BIZや、オンラインアシスタント「フジ子さん」など、オンラインアシスタントサービスが続々登場しています。従来は、主にバックオフィスにおける人材不足を解消するためのサービスだったのが、今は専門スキルを活かした人材にまで幅が広がり、職種は営業、DX人材など、働き方もアバターによる接客業務など、これまでにない多種多様なキャリアが揃っています。
2:リモート副業
副業や、スキルを生かすボランティア支援「プロボノ」に興味がありつつも、時間や場所の制約でできなかった人も、リモートで実現可能になりました。自由な働き方、自由な発想が必要とされる分、バーチャルオフィスのようなどこでも誰とでもどんな風にも関われる空間がマッチします。
3:メタジョブ
(※6)メタジョブは、三井物産グループの「Moon Creative Lab Inc.」で、社内起業として立ち上がったプロジェクトチームが運営する人材マッチングサービスです。時間や場所の制約や身体的要素にとらわれないメタバースで勤務する仕事に特化しており、アバターになって、メタバース空間の接客や、ドローン・ロボットの遠隔操作などの案件が人気です。
ハイブリッドワークからバーチャルオフィスハイブリッド、そして個別最適な働き方へ
withコロナ、afterコロナの時代になり、Apple社をはじめとする一部企業ではオフィス回帰の動きがありますが、バーチャルオフィス出社と通常出社の「ハイブリッド出社」がスタンダードになりつつあるようです。
今後ますます、会社で規定された働き方ではなく、個別最適な働き方の選択が可能となっていくでしょう。そして働き方の選択肢が今よりも格段に増えることでしょう。
選択肢が増えるということは、自分がどう働きたいか、どう暮らしたいかが問われる世の中になるということ。バーチャルオフィスやVR勤務というのはそのための一つのツールでありながら、その技術や領域は日々進化しています。バーチャルオフィスだからこそできること、それはもしかするとリアルでは実現できないような世界かもしれませんし、バーチャルながらリアルを楽しめる世界かもしれません。
次回は、そんなバーチャルオフィスの可能性を、VRゴーグル片手に探究するあるSplashtopエンジニアのお話をお伝えしようと思います。
出典
- ※1
- コロナ禍で急速に伸長する仮想オフィスツール市場の実態と将来展望(矢野経済研究所)
- ※2
- oVice(oVice株式会社)
- ※3
- リコー「ワークスイッチングー変化する企業たちー」(oVice株式会社)
- ※4
- 必要なことは全て揃っているメタバース忘新年会(oVice株式会社)
- ※5
- 伊藤忠インタラクティブ「VR VENUE」 伊藤忠商事新卒内定者が考えるVRを活用した「次世代採用」プロジェクトが本格始動
- ※6
- メタジョブ
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