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【事例で学ぶDX】自社工場のスマート化で“魅せる工場”に進化する別川製作所のDX化“リアル”ストーリー

【事例で学ぶDX】自社工場のスマート化で“魅せる工場”に進化する別川製作所のDX化“リアル”ストーリー

DXは必要不可欠とわかっていても、思うように進まないことも多いもの。そんな中、まだDXがキーワードではなかった2017年から小さな歩みをはじめ、2022年6月には「DX認定事業者」に認定されたのが、石川県白山市に本社を置く別川製作所。

完全オーダーメイドの受配電設備などを手がける同社は、将来の幹部候補生らが描いた未来のありたい姿に向けて、少しずつ着実にDX化の歩みを進めてきました。「DX化は結果論。課題を一つずつクリアしてきただけ」と語る同社の担当者に、その試行錯誤や紆余曲折、今も抱えるジレンマも含めたリアルなDX化ストーリーを伺いました。

■企業紹介
株式会社別川製作所(本社:石川県白山市)

https://www.betsukawa.co.jp

受配電設備及び各種プラント制御・自動化システムや空調・照明コントロールシステムの設計、製造、販売、設置工事、保守及び保全、鉄道電気設備における設計、保守及び保全、電気、通信、工事の設計並びに施工請負を行う電気機械器具製造メーカー。

■取材協力
管理部部長/経営企画室長 六角 篤志氏
管理部 情報システムグループ グループマネージャー 疋田 祐一氏

■別川製作所のDXの現在地
・2017年よりスマートファクトリープロジェクト(*1)を実施。
・工場内Wi-Fi整備から始まり、AI画像検査判定による不良品検査システムの導入、製品ごとの生産工程進捗見える化、スマートグラスを使った作業効率向上など、スマート工場の取り組みを加速させ、DXによる生産・品質向上につなげている。
・工場での製造工程だけでなく、営業や調達でもペーパーレス化やデジタルによる効率化を実施。
・自社工場をスマート化し、そのソリューションを提供していく「工場のショールーム化」を目指している。
・2022年6月、経済産業省「DX認定事業者」認定。

(*1)「スマートファクトリー」
デジタルデータ活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続発展的に実現する工場。


スマートファクトリー①

別川製作所のDX化のはじまり

──別川製作所では、経産省がDXを打ち出す2018年の前年の2017年からスマートファクトリープロジェクトをスタートしています。世の中的にはかなり早い段階からの着手ということになります。プロジェクトを始めた背景やその当時の様子をお聞かせください。

六角氏

六角氏:2015年に「3ヶ年次世代経営幹部育成研修」がスタートしました。働き盛りの40代を中心に26名が集められ、1年目は部長職に必要な財務・マーケティング知識など、一般的な経営スキルを座学中心で学びました。これを受けて、自分は将来どうしたいかというプレゼンがあり、ある社員がまさに今のスマートファクトリープロジェクトに近いようなことをやりたいと言ったんです。「IoTを活用した考える工場を目指したい」と。これが別川製作所のDX推進の第一声でした。

2年目からはそれぞれの未来構想に向けて5つのプロジェクトが立ち上がりました。スマートファクトリーのメンバーは当時3人で、予算も付きました。

──DXの取り組み開始は、トップダウンで行われるケースも多い中、別川製作所の場合はメンバーから発案して、トップのGOが出たということですね。

六角氏:現会長の別川が特に新しいもの好きで、新しい企画やそれを導入するということに積極的だということも大きいと思います。今では当たり前ですが、ホストコンピューターやパソコンの導入も業界ではかなり早かったですね。「失敗してもいいから新しいものにどんどんチャレンジしよう!」という当社の風土は今でも健在です。IoTで新しいものを創りたいというこの企画についても、役員の同意は簡単に得られました。


──経営計画との整合性、ロードマップの引き方など、経営サイドの見方はどのようなものでしたか?

六角氏:弊社は昔から3年ごとに中期計画を策定しており、「3ヶ年次世代経営幹部育成研修」を行ったときはちょうど第10次というタイミングでした。このとき、25年後に創業90周年を迎えるということで、そのときにどんな会社になっていたいか、というビジョンを考えました。25年後は?その前の10年後は?5年後は?3年後は?と議論を重ねていったとき、10年後のビジョンとして生まれたが今のスマートファクトリー構想です。


このとき、スマートファクトリーを実現するためのざっくりとしたロードマップが描かれました。将来の幹部候補が知恵を絞って「将来の別川製作所はこうあるべき」という道筋を考え、それをもとに、いつまでに何が必要か、バックキャストするようなイメージで、近い将来の具体的な計画に落とし込んでいきました。


25年後のビジネスモデル


株式会社 別川製作所 – DXの取組 –(※1)


──経営計画は今あることの積み上げで考えてしまいがちですが、3年後、5年後ではなく、いきなり25年先を考えるというのは斬新ですね。


六角氏:現在地から未来を追うのではなく、未来のあるべき姿から少し先の計画を立てたのはこのときが初めてでした。計画を積み上げ式で考えるとどうしても企画がこじんまりしがちで、大きく広がらないことがあります。


25年先ということでいうと、実は別の側面での課題もありました。我々が作っている受配電設備は、大きな電力を小さな電力に変換しながら安全な電気をお届けするというものです。現在、ユーザーが利用する電気はすべて交流(AC)なのですが、将来直流(DC)が主流になったとしたら、実は弊社の製品は必要なくなってしまう可能性があるんです。世の中の技術が発展して今の基幹事業で勝負できなくなったとしたら、現状維持はむしろ規模縮小であるという危機感はその当時から強く持っていて、だからこそ、25年先の未来を考える必要がありました。


DX化でぶつかる壁をどう乗り越えたのか

ーーDX化など新しい取り組みを行う際には、多くの企業が現場の抵抗や反発に悩むと聞きます。御社の場合はいかがでしたか?


疋田氏


疋田氏:大きな抵抗はなかったですが、プロジェクトが始まった当初は、変革への大きな志を持ったメンバーばかりではなかったように思います。とはいえ、漠然とやりたいこと、こうなればいいなという思いはそれぞれが持っていました。少しずつプロジェクトを進めながら、それらが形になっていくのを体感し、こんなことができるのか、ならばあんなこともできるな、というような考えが浸透して行ったと思います。


そのうち、あれもやりたい、これもやりたいといった積極的な意見が出てくるようになって土壌ができあがってきたという感じです。また、一部の幹部候補生だけ出なく、徐々に現場からもメンバーが参加するようになったことも大きいと思います。現在は20代の若手から50代のベテランまで、25名のメンバーが集まっています。


──DX推進をしようにも、何から着手していいかわからない、何が必要かわからないという声もよく聞きます。


六角氏:スマートファクトリープロジェクトでは「営業」から「検査」までの各工程に対して複数のチームが活動していました。まずはそれぞれでテーマを設定し、できることから取り組みました。データをPCに蓄積していこうという、インフラとしてWi-Fi環境を整備しようというようなところからです。


チームを限られた部署のメンバーで構成してしまうと結局部分最適になってしまうため、関連する部門や過去の経験者をバランスよく組み合わせて構成しました。チーム制にすることで、互いの進捗を確認したり、情報共有することで新しい発想が生まれたりという効果もありました。


また、プロジェクトが進捗してもロードマップは精緻に引かず、5年先までに生産効率を何倍あげるかというようなことをざっくり描くに留めました。いつ何をするかはその都度話し合って最適解を導きます。


──DX化を進めようにも、十分な知識や経験を持った人材がいないことが壁になることも多いと聞きます。DX、IoTに関する新しい知識、情報のキャッチアップはどのように行なっていますか?


疋田氏:DXとは、というような勉強は特にしていません。ミーティングでそれぞれの知識や情報を持ち寄り、アップデートしていく感じでしょうか。どちらかというと、「こんなことがしたい」というニーズがあって、それが実現できそうな手段を各自調べてくるという風土です。メンバーは積極的に展示会に参加したり、金沢工業大学と連携して企画開発したりしています。長期のインターンシップを受け入れたり、実証実験に協力いただいたりする中で、専門性を磨くことはもちろん、将来にわたる人間関係の構築もできているのではないかと思います。


スマートファクトリー②

DXを難しく考えすぎない。規模に合わせてシンプルにできることから

──2015年に「IoTを活用した考える工場を目指したい」という声から2017年のプロジェクト発足、2022年には「DX認定事業者」に認定と、順風満帆にDX推進が実現しているように思われます。DX推進がうまくいっていると実感すること、また、頓挫しない秘訣はありますか?

六角氏:まず、大前提としてDX推進がうまくいっている部分もあれば、いまだにアナログでDX化には程遠い部分もあり、順風満帆そのものというわけではないのが現状です。そのジレンマを抱えながらも、できることを1つずつ進めているという状況ですね。


疋田氏:これまで部分最適でなんとなく解決したように見えていたことが、このプロジェクトを通していろいろな部門で抱えている問題が顕在化しました。これらをどう解決していけばいいかという道筋ができたことは大きなメリットで、それぞれの部門のメンバーが主体的に取り組む環境が育ってきていると感じています。


これまでは「困ったら情シスに丸投げ」ということが少なくなく、プロジェクト発足当初も情シスの負担は大きかったのですが、今では各部門から率先して情シスに情報をくれたり、事前に打ち合わせを重ねてくれたりするようになりました。DXを推進するにおいて、情シスがスムーズに動けること、情シス任せの傍観姿勢をなくすことは重要なことだと思っています。


六角氏:別川製作所のDX推進は、トップから「DXを推進しろ」「IoTを活用しろ」と言うというよりは、自分たちがやりたいこと、実現したいものの手段の一つにDXがあるということだけなんです。「DX認定事業者」に認定されはしましたが、DXを意識した活動の結果ではないと思っています。


とはいえ、DXを活用していくということは事実で、これを社員にどう伝えるのかは常に考えています。DXとはどんなもので、具体的に何がどう変わるのか、変わることと変わらないこと…。伝え続けることで、会社として大切にしていることなんだなと社員に浸透するのです。


細かいことですが、DXを推進しているという事実を社内外に広報することもその手段の一つです。例えば「DX認定事業者」に認定されればメディアに取り上げられます。世間から注目されることで、社員の意識も高まります。


また、よく事例で学ぶということをしますが、大企業のすごい例を見ても、中小企業は「うちには無理」と思ってしまいます。DXはそれぞれの企業規模にあったサイズ感で良いのです。単なるIoTの延長でもいいと思います。自分たちの企業でやるべきことを、自分たちで取捨選択をして、できることからやっていく。そんなシンプルな方法が成功の近道かもしれません。


「DX認定事業者」の顔ぶれを見ても、中小企業が目立つと思います。DX推進は大企業が時間とお金をかけて取り組むものと思われているかもしれませんが、それぞれの規模にあわせたDX推進で十分です。


──最後に、今後の展望、さらなるDX推進のビジョンについてお聞かせください。


実は我々はDX推進で成功したとはまったく思っていません。むしろ、課題は山積しています。現場からの課題、改善点はたくさん上がってきますが、スピードを持って対応するというところまでは至っていませんし、優先順位づけも難しい…。新しいことを始めようにも、古いシステムがその足かせになるというジレンマもあります。効率が悪いなと実感しながら進めている業務もいくつもあります。それでも、これからも泥臭く、できることから1つずつ解決していくことで、見える景色を変えていきたいと考えています。

出典

※1
別川製作所のDXの取り組み

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