IoT未来レシピ by

  1. HOME
  2. DX
  3. 仕掛け人に聞く!農家の課題を解決する南紀白浜流の地域課題解決型ワーケーション成功のヒケツ

仕掛け人に聞く!農家の課題を解決する南紀白浜流の地域課題解決型ワーケーション成功のヒケツ

仕掛け人に聞く!農家の課題を解決する南紀白浜流の地域課題解決型ワーケーション成功のヒケツ


2023年6月、スプラッシュトップは株式会社南紀白浜エアポート、和歌山県及び白浜町と連携し、「和歌山県地域課題解決型ワーケーションプロジェクト」を開催しました。この内容はこちらの記事でレポートした通り、今回のテーマである「農業DX」に関して地域が抱える課題に対して、異なるバックボーンの参加者から実現可能性の高い提案が生まれ、今後の継続的な関わりも予感させる熱量の高いものとなりました。改めてこのイベントを開催した背景、レポートではお伝えしきれなかった主催者の思い、そしてプロジェクト成功の秘訣についてまとめます。

振り返っていただくのは、本プロジェクトに尽力いただいた以下のみなさんです。

坂野悠司氏(和歌山県 企画部 企画政策局 デジタル社会推進課 プロジェクト推進班 副主査(官民連携担当))

森重良太氏(株式会社南紀白浜エアポート 誘客・地域活性化室 室長)

長谷川瑛子氏(スプラッシュトップ株式会社 ニューワーキングスタイルアドバイザー)

プロジェクトが生まれた背景

─────それぞれのプロジェクト参画背景を教えてください。

坂野氏

和歌山県でワーケーションの取り組みを始めた2017年から、IT企業誘致やワーケーションの推進に関わってきました。2017年当初、ワーケーションという言葉自体がまったく浸透していない時期に手探りで可能性を模索し、日本で受け入れられるか、和歌山県にポテンシャルがあるかを企業へ営業やヒアリングを行い、モニターツアーを実施しました。

モニターツアーを実施したことで、旅費、労災、勤怠管理などに対する課題や、企業ごとにプログラムへのニーズが違うことが分かりました。そこで企業ごとのニーズにオーダーメイドで応えるワーケーションプランを作成し、県庁職員がワーケーションコンシェルジュを称して、毎週のようにコーディネートをしたことで100以上の企業を誘致できました。

現在、和歌山県庁がこれまで取り組んでいたものを県内で民間でも自走できるように民間事業者同士の体制を構築し、南紀白浜エアポートの森重さんのようなコーディネーターの方々と取り組みを進めています。

そして今回、スプラッシュトップ社にご提案をいただき、地域の課題を解決するというテーマのワーケーション企画を開催するに至りました。

森重氏

2018年に南紀白浜空港が民営空港となりました。それをきっかけに、私自身、東京から和歌山県に移住しました。私のミッションは空港の利用者を増やすこと。その活動の一環で、地域コンシェルジュ事業を立ち上げました。ひたすら地方創生のお手伝いをする日々です。地域の課題を解決しながら地域に人が継続的に来る理由をつくり、誘客の仕組み化を目指す。それによって空港利用者も結果的に増える。空港の発展は地域の発展からという考えで取り組んでいます。

2018年当時、南紀白浜は夏と週末に観光客が偏って集中するような状況でした。それ以外の時にどうやって人を呼ぶかが空港も含めた地域全体の課題でした。平日に人を呼ぶ手段として、ワーケーションに注目し、以来、和歌山県庁の坂野さんや地域のみなさんと協力しながら推進しています。

長谷川氏

ニューワーキングスタイルアドバイザーとして、新しい働き方を提案する仕事をしています。和歌山県庁さんとのお話の中で、ワーケーションはどうかということになりました。私は和歌山県が地元なので、何かお役に立ちたいなという思いで参加させていただきました。

─────ワーケーションは旅行と仕事を兼ねて、働く場所を変えましょう、という意味合いが大きい印象ですが、今回の取り組みのように、地域貢献をコンセプトにしたのはどういった経緯でしょうか。

坂野氏

和歌山県は2001年からIT企業の誘致に力を入れています。2015年にはセールスフォース・ジャパン、2016年にはNECソリューションイノベータがサテライトオフィスを開設しています。そこで、IT企業誘致の入口として導入したのがワーケーションです。

人口減少が課題の和歌山県として、新たな産業を誘致することで雇用を生み出すことがIT企業誘致の狙いです。また、和歌山県のワーケーションは、IT企業の斬新な切り口、技術で地域課題の解決の糸口をつかもうというところに期待をしています。

ですから、コロナ禍がきっかけで注目されたワーケーションですが、コロナがあろうがなかろうが、和歌山県としては実は早くからブレずに推進してきました。観光庁が音頭を取って推進しているワーケーションとは目的が少し違うのはこのような背景からです。

リモートアクセスという技術で、どこにいても仕事ができるソリューションを提供しているスプラッシュトップ社がこの取り組みに共感してくれて、一緒にやりましょう、ということになりました。

─────企業が地域課題に取り組むこと、地域に貢献することのメリットはどこにあるとお考えでしょうか。

森重氏

これまで200社以上の企業誘致・ワーケーションに関わってきた中で、企業に必ず聞かれることが2つあります。1つは「なぜ和歌山なのか」ということです。首都圏の企業なら、在宅テレワークはもちろん、軽井沢や熱海など近郊にワーケーションに適した地域はたくさんあります。

2つ目は「費用対効果」です。社内で決裁をあげるときに、企業としての経済合理性をどうやって説明するのかということです。単にリフレッシュ目的で仕事と休暇を合わせましょうという理由だけでは、なかなか社内で話が通せません。

和歌山である理由は、急速な人口減少に伴う地域課題が豊富で、その生きた課題を企業向けに体験プログラム化しており、企業として取り組みやすいこと。費用対効果については、新規事業開発や人材育成、チームビルディングという側面が大きいでしょう。普段と違う場所で、違う価値観を持った人と生きた課題をベースとしたコミュニケーションによるダイバーシティの推進や新規事業の立ち上げなど、都市部ではなかなかできない事業創出や人材育成が、和歌山でならできるということを売りにしています。

プログラム成功の要因は生きた課題の共感と実感

─────プログラムの成功要因をそれぞれのお立場からお聞かせください。

坂野氏

スプラッシュトップ社による参加者の選定と、森重さんに造成いただいたプログラムの秀逸さに尽きるかなと思います。

長谷川氏

参加者の募集に関しては、枠以上に応募がありました。その中から、企業規模やエリア、性別を問わず、色々な立場から多角的な意見が出るように選定しました。

応募はホームページで募集をかけました。LPを作成し、X(旧Twitter)での告知、バナー・リスティング広告で集客しました。

実際のキャンペーンページ

森重氏

プログラムの工夫としては、今回は現地1泊2日という非常に限られた時間だったこともあり、事前にオンラインでの情報共有、メンバー紹介などを行いました。現地にいる時間は現地でしか得られない体験に優先的に時間を使うと決めました。現地で初めて会ったメンバーでしたが、農家の遠藤さんのことも、互いのメンバーのことも、ある程度理解した状態でスタートできたのは大きかったと思います。

今回のメンバーは本当に多様で、異業種・異質のメンバーが集まることでの相乗効果がありました。メンバー選定はスプラッシュトップさんが行ってくれましたが、それぞれのお人柄、スキル、得意分野など、足し算ではなく掛け算で効果が出たと思います。課題解決のアウトプット提案も想像以上の内容でした。

ダイバーシティやイノベーションはこのような「異質の掛け合わせ」から生まれると思います。和歌山県のワーケーションの意義とも相まって、素晴らしい体験となりました。

─────企業のバックグラウンドが違うと、それぞれが自分の領域で勝負する構図も想定されます。今回のようにチーム一丸になれた理由は何でしょうか。

森重氏

今回は、農家の遠藤さんのリアルな思いや実情に全員が寄り添ってくれたことが大きかったと思います。私自身、このような企画は数多く開催しているのですが、正直、都会目線だけで地域課題を感じて地域の思いや実態にあまり沿わない提案をしてしまったり、自社の商品・サービスを安易に売り込むといったケースも少なからずあります。今回チームが一丸になれたのは、遠藤さんが抱える固有の思いや生きた課題にメンバー全員が真剣に寄り添ってくださったからだと思います。

課題がリアルでなければ、解決アイデアだけが発散して横には広がるものの前にはなかなか進みません。今回の参加者は全員で遠藤さんという人を深い部分まで理解しその思いを汲んで、教科書通りの一般的な正解ではなく、遠藤さんが明日から一歩を踏み出せる具体的なアイデアを持ってきてくれたのだと思います。

元々のプログラム予定では、それぞれ各自で1人ずつ提案プレゼンをすることになっていました。それが、こちらの意図とは違って、チームが議論をする中で自然にまとまって一つのストーリーに基づく提案に仕上げられました。「参加者それぞれの専門分野からバラバラの提案をしても、遠藤さんお一人ではできないかもしれない。だからチームで一つの大きなストーリーを作り、それぞれの領域からそれを実行するためのアドバイスをしよう」「遠藤さんが明日から一歩踏み出せるような本当に実現可能なアイデアを考えよう」ということで自発的にまとまったようです。開催者側の期待をはるかに上回る課題解決のアイデア発表になりましたし、遠藤さんがその場で感極まって涙まで流したのがそれを物語っていると思います。

坂野氏

今回は我々行政、地元企業、参加者の全員が垣根を超えて参加できるような良いプログラムだったと感じました。それぞれの役割分担がきちんとできていたことも大きかったと思っています。

長谷川氏

かっちりとプログラムを固めてその通りに進めるのではなく、余白を残しておくのもポイントかもしれません。そのことで色々な意見が出て、可能性が広がったりすると思います。

打ち上げ花火で終わらせず、持続可能で自走できる仕組みづくりへのこだわりを

─────今後同じようなことを考えている自治体・企業にアドバイスするとしたらどんなことがありますか。

坂野氏

自治体の立場からいうと、このようなプログラムが持続的に自走するためには、民間企業の協力なくしては難しいと思います。行政の予算や補助金頼みでは、単発で打ち上げ花火的に盛り上がって終わるでしょう。そうではなくて、民間企業がビジネスとして取り組んでいただく必要があります。行政はその活動のサポートをする立場であることが重要だと思います。

森重さん、南紀白浜エアポートさんのような都市部と地方の「通訳」となるコーディネーターを見つけ、その方々が活動しやすいよう、サポートしていくことが行政の取り組むべきことかと思います。

森重氏

2つあります。1つ目は、民間がビジネスとして自走できるように行政の補助金に頼り過ぎない関係をつくることです。なぜ和歌山県がこのように官民連携がうまくできているかという背景でもありますが、和歌山県は私たちの企業コンシェルジュ活動に1円もお金をくれません(笑)。そのため、自分たちで稼いで継続していく方法を必死で考えさせられました。

私は全国で20地域ほどこのような企業誘致による地域活性化のお手伝いもしているのですが、多くの地域では民間を巻き込むのにまず行政の補助金ありきで考える傾向があります。もちろん補助金をうまく活用することもとても重要ですが、補助金ありきで物事を進めてしまうと予算がなくなったタイミングで民間が自走できずに取り組みが終了してしまう危険があります。行政は地域全体のプロモーションや体制づくりなどを後方支援しつつ、民間が持続的に稼げる仕組みを一緒につくっていくことがとても重要で、お金をほとんど出してくれなかった和歌山県にはそういう意味ではかなり鍛えてもらいました(笑)

また、官民連携がうまくいくポイントとして目的やビジョンが関係者で共有できていることも重要です。人口減少が進む地域において企業を誘致することで雇用を創出して移住・Uターンに繋げたい、企業と課題解決に取り組んで持続可能で豊かな地域を次の世代に残したい、そういった思いやビジョンを官民の担当者同士で共有ができていたからこそ、行政と民間で同じ方向を向いてそれぞれの役割を有機的に果たすことができたのだと感じています。ワーケーションは地域活性化の手段の一つに過ぎませんが、和歌山県ではその目的やゴールが共有できていたので手段としてのワーケーションがうまく奏功したのだと思います。

2つ目は、地域の弱みでもある課題をうまく企業向けにアピールすることです。地方創生と言うと、どうしても地域の強みである観光資源ばかりが先に立ってしまいます。もちろんこれらはあるに超したことはないのですが、我々がアピールしているのは企業がビジネスや人材育成で関われるような地域の課題や弱みを体験プログラムにしたものになります。


南紀白浜というと温泉やビーチ・パンダが観光資源として有名ですが、今回はほとんどそのようなところへは行っていません。もしかしたら地域に観光資源がなくても地域の課題が多いところの方が企業誘致を通じた地方創生では強さを発揮するかもしれません。観光資源ではない、地域の社会課題や地域にいる人の悩み事と、そういったところに手が届きにくい都市部の企業や人をうまくマッチングすることで地域と企業の両方の課題解決にチャレンジしています。

都市部の生活ではSDGsや社会課題をあまり体感しにくかったり、ダイバーシティと言いながらまだまだ同質的な働き方をしている企業も多いと感じています。和歌山ワーケーションを通じて、個人、企業、地域の3者がWin-Win-Winになれるような仕組みを、これからも考えていきたいと思っています。

長谷川氏

現在、第二弾を企画しているところです。次は環境省と組んで、「環境DX」をテーマにする予定です。テーマを変えることで参加者の枠を広げ、ワーケーションの可能性、再現性が広がっていくことを期待しています。

「和歌山県地域課題解決型ワーケーションプロジェクト」のレポート記事はこちら:

https://iotremote.jp/article/article/20240117.html

SHARE

twitter facebook

こちらの記事もおすすめ