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「小さな会社だから無理」は勘違い⁉
総合埠頭の事例に学ぶ“身の丈に合った”リモートワーク&DXの進め方

「小さな会社だから無理」は勘違い⁉総合埠頭の事例に学ぶ”身の丈に合った”リモートワーク&DXの進め方

新型コロナがきっかけで急速に広がったリモートワーク推進やDX推進。働き方改革や健康経営、BCP(事業継続計画)の観点での企業努力もあり、どんどん普及しているように思われます。しかしながら、中小企業の中には、IT環境やシステムに強い人材が少ないことを理由に、進めづらさを感じている企業も少なくありません。

そんな中、社員数20名強でありながらリモートワーク推進・DX化に成功しているのが港湾運送業を手がける総合埠頭株式会社。管理部で推進役を担ってきた杉本和嗣氏に「小さな会社のリモートワーク推進ストーリー」を伺いました。

総合埠頭のリモートワークの現在地

総合埠頭株式会社(愛知県豊橋市)

創立52年目の総合埠頭株式会社は、三河港を拠点に港湾運送業・通関業・海運代理店業など、幅広い輸入関連事業を手掛けている会社です。中でも、海外輸入自動車の取り扱いに関しては、日本全国の約3割を同社が担い、業界を支えてきました。

杉本和嗣氏(管理部)

総合埠頭様

リモートワークの導入から、労務管理、DX推進まで1人情シス(専門部なしで管理・総務業務部で兼務しながら)として一手に手がけている。

総合埠頭のリモートワークの現在地

・2020年コロナ感染拡大を機会に導入。

・検討開始から導入まで約3ヶ月。Splashtopのリモートアクセスツールを導入。

・現在は週1回リモートワーク導入。リモート化で見えたルーティン業務の課題から、業務のDX化も推進中。

・リモート活用した変形労働時間制導入なども検討するなど、次世代の働き方をデザイン中。

総合埠頭のリモートワーク推進のスタート地点

──2020年コロナ感染拡大を機会にリモートワークを検討・導入されました。現場への説明や工夫したことなどお聞かせください。

はじめはやはり消極的な意見が多かったように思います。特に、管理職にとっては、実務を回す責任もあり、これまで築き上げた業務内容、仕事の仕方をリビルドしなければならないことへの負担感や懸念、不安があったようです。逆に、経営陣は、働き方改革の一部としてリモートワークに前向きでした。また、若手社員はその家族も含め理解が得やすかったと思います。特に、子どもが小さい社員には期待されました。

いろいろな反応がありましたが、やはり大きな変化なので、現在の業務をリモートでどこまでできるか、仕事の量が限られることで給与や評価が下がるのではといった不安の声も挙がったのは事実です。

こうした声にどう答えていったかというと、まずは状況として「やらなければならない」という会社としての姿勢を示しました。導入する方向で話をさせてください、と。さらに、リモートワーク導入は、コロナ禍の一過性の対応ではなく、会社として将来を見越した取り組みになることも説明しました。具体的には、例えば家族に介護が必要になったときや、健康上の問題で出社ができなくなったとき、今は良くても将来離職せざるを得なくなるかもしれない状況が来たときに、会社としてできるだけ社員の雇用を守りたい、そのための手段でもあるのだと説明しました。

リモートワーク推進でぶつかる壁をどう乗り越えたか

──管理職を含めて、現場からの反発の声にはどのように対処しましたか?

社員の理解を得るまでの過程は丁寧に対応していきました。相手の立場に立って、相手にとっての価値を語るようにしました。管理職の方が若手よりは将来の不安も若干大きいので、その部分についてこの制度を導入すればどんなメリットがあるかをイメージしてもらえるように。また、トップダウンで強引に進めるのではなく、導入のプロセスに管理職も巻き込み、一緒に作り上げていく当事者感を共有しながら進めることを大切にしました。

──リモートワークの検討から導入までにどのくらいの期間がかかりましたか?

実は検討開始からは4ヶ月ほどかかりました。Splashtopに決定するまでに他社製品の導入の検討、トライアルなどで2〜3ヶ月、Splashtopに決めてからは1ヶ月かかっていません。1週間ほどトライアルして導入を決めました。

──導入までのプロセスはどのようなものだったのでしょうか?また、どのような課題に直面しましたか?

「社内の要望把握」「ツール選定」「ルール策定・社内周知」「導入後のサポート」と進めていきました。

(1)社内の要望把握

まずは導入前に必要だと思うことや必要な物を丁寧にヒアリングし、それらの機能が備わっているツールを選定しました。弊社の場合、既存のソフト・アプリ・システムをリモートで使用できることが大前提でした。その上で、操作性、通信が安定していることを重視しました。

具体的には、1アカウントで複数台操作できること、画像転送方式で手元PCにデータが残らないことやセキュリティなどが課題として挙がりました。

(2)ツール選定

元々は他社製品を検討していましたが、トライアルしてみると会計ソフトが動かなかったり、ライセンス管理が思うようなものでなかったりしたため断念。それらの条件を満たせるSplashtopに切り替えました。

ツールを選定する段階で、自宅でも会社と同じ作業環境でパフォーマンスが発揮できるものにこだわるべきだと思います。それがパフォーマンスへの不満からくる制度そのものへの反発を未然に防ぐことになります。

(3)ルール策定・社内通知

厚労省のモデル規程を参考に、始業終業時間・残業禁止・リモートの事前申請制(変更可)・通勤手当は減額しないなど、就業に関する最低限のルールを作りました。同時に、セキュリティーガイドラインの策定も始めました。具体的には、作業場所の限定や、印刷不可・USB使用禁止、リモートPCへのデータ保存不可、アプリ以外の接続制限などです。

ある程度固まったら、リモートワーク対象者向けにルールの共有や操作方法の説明会を行いました。

(4)導入後のサポート

導入後に社員からの問い合わせが多発するといったことはありませんでした。Splashtopであれば、会社のPCの使い勝手をそのまま自宅で再現できるからでしょうね。また、環境をしっかり整えたので、導入後はパスワードを忘れた、などのちょっとした問い合わせがあるくらいで、大きな混乱はありませんでした。課題を乗り越えると言う意味では、実際にやってみたら案外うまくいった、というのが正直な感想です。「案ずるよりも生むが易し」でした。もちろん、個人的な得手不得手やそれぞれの思いはありますが、制度の確立・改善に取り組む一方で、意識改善、「やりながら慣れること」を訴えています。

全員の要望を聞きすぎても改革は進みません。例えば、業務パフォーマンスに関わる部分、PCのモニターが今までと違うから見にくいなどに関しては会社側でフォローしますし、椅子の高さが違うとか、ネットワーク環境がよくない、などの意見に関しては自己努力で……ということになります。

リモートワークの労務管理のリアル

──リモートワークは勤務実態の把握が難しいなど労務管理に苦労するとも言います。御社ではいかがでしょうか?

確かに、どの時間帯でも接続できることで、深夜稼働もできてしまいます。一度、深夜にお客様にメールを送信してしまったという例もあり、会社としての指針を示しました。

・常識外の時間の顧客連絡は原則禁止

・業務外稼働をした場合は、別途休憩時間をとるなど

また、労務管理はできるだけシンプルにしたいというのが社長の方針でもあり、細かな日報は作成しないことにしました。やるべきことをやっていれば必要以上に管理せず、社員を信頼しているということです。

よく毎日日報を提出させるということも聞きますが、1週間に1回の提出でも、誰がどの時間にどんな業務をしているかが把握できますし、個人の特性も見ることができました。
例えば、弊社ではルーティン業務が多い社員に対して、閑散期に他部署での新しい業務に関わる業務シフトを実施したりもしました。仕事のマンネリ化を防ぎ、新しい環境で刺激を受けることで本人の向上心も高まります。今の仕事への見方も変わるかもしれません。この点は思わぬメリットだと思っています。

社員にとっては労務管理を細かくされると、リモートワークの便利さより面倒臭さの方が上回ってしまいます。試行錯誤の段階ですし、まずはリモートワークという働き方を根付かせることを優先しました。せっかくですから日報は労務管理をする側も有効に利用し、どのように運用にするかを事前に検討するといいと思います。

リモートワークの成果がDX化を進めるきっかけにも

──リモートワークの成果、うまく軌道に乗った秘訣について教えてください。

リモートワークでも、出勤時と同じパフォーマンスを発揮できることはもちろん、業務の棚卸しや整理、進捗途中ですが必要な資料のデータ化も進みました。先述のように、社員の日報から、ルーティン業務の把握や、DX化の検討・着手にも繋がっています。

リモートワークがうまく推進されている秘訣は、部分的な業務のリモートではなく、最初から基幹業務に切り込んだことにあると思います。例えば管理部で言えば、販売管理・会計システム・振込対応など、ほとんどの基幹業務がリモートで行えます。


カバーしきれない部分的な業務については別の担当者や、出勤した日に対応しているため、支障はきたしていません。基幹業務がリモートで行えなかったら、結局二度手間になるから出社してしまうという流れになったのではないでしょうか。

また、その日に行うべき業務がない社員には、半休を取得してもらったり、業務で必要な知識の習得時間に充ててもらったりと、制度も流動的に変更したのも、うまく根付かせることに貢献したのではないかと思います。

今後のリモートワーク、DX化の展望

──今は週1日でリモートワークを継続し、ペーパーレス化も進めていく予定と伺っています。次なる展望について教えてください。

リモートワークは週1日の運用ですが、試行錯誤していく中で、最適な頻度を検討していくことになります。例えば、深夜早朝以外であればいつでもリモート可能にしたり、変形労働を認めたりなど、専門家の意見を聞きながらトライアルの運用を準備しているところです。

ペーパーレス化については業務内容上、弊社だけではできません。お客様の意向や理解を得ながら進めていきたいと考えています。電子帳簿保存法により電子取引が加速すると思っています。

ルーティン業務の自動化、DX化も進めていきたいと思っています。一例ですが、これまで、納車された自動車をどの駐車場に停めるのかということを、エクセルで作成したシールで管理していました。これを、船が到着するたびに1000台〜3000台という数を捌いていたのですが、最近これを自動化したんです。1回あたり30分かかっていた業務が3分に短縮でき、その効果は想像以上でした。今後も、業務効率化を進展させていきたいですね。

──変形労働時間制など、新しいことにどんどんチャレンジされています。社員や経営層の反応はいかがですか?

変形労働時間制に関しては、1ヶ月の労働時間だけを決めておけば、あとは本人の都合と裁量で勤務してもらえたらと検討しています。毎月の総労働時間を働く人本人が調整できることは、新しい世代の若者たちへのアピールにもなります。もちろん賛否あって、経営側からは自由すぎるんじゃないかと心配の声もあります。

例えば育児のための時短制度を利用している社員など、現時点でイレギュラーな勤務形態を選択している人とのバランスなど、まだまだ課題は多く、調整は続くと思います。

個人的には、リモートワークによって、フレキシブルに働ける環境がベストだと思っています。お昼の休憩時間を長めにとれば買い物などの用事も済ませられますし、子どもの行事があれば勤務時間をずらしたり、生活に合わせて働けたりすることで、よりやりがいを感じてくれる人が増えるのではないかと思っています。

DX化して生まれた時間は、新しい働き方の検討や、次なる業務改善のために使いたいですね。

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