いよいよ政府がテレワークを活用して仕事と育児の両立をしやすい社会にするための制度を作ろうとしています。2023年5月15日に厚生労働省の有識者研究会が公表した『今後の仕事と育児の両立支援について(論点案)』によると、子どもが3歳まで、仕事と育児の両立を支援する、その手段の一つとしてテレワークを推奨するとしています。
政府の取り組みやその影響、そもそも3歳までテレワークに対応するには、企業としてどんな取り組みが必要かについてまとめます。
3歳までテレワーク推奨って?対象や背景は?
まずは子どもが3歳までテレワークを推奨する背景などについてまとめます。対象者や対象企業の条件は?テレワーク制度の導入は必須なのでしょうか。
テレワークの対象者・対象企業
対象者、対象企業について、『今後の仕事と育児の両立支援について(論点案)』では以下のように述べています。(※1)
子が3歳までの両立支援について育児との両立に活用するためには、就業時間中は保育サービス等を利用して就業に集中できる環境が必要であるため、例えば、保育所等への入所に当たり、居宅内での勤務と居宅外での勤務とで一律に取扱いに差異を設けることのないよう、保育行政において徹底していくことが必要である。
こうした条件が整えばテレワークは、フルタイムで勤務できる日を増やせることも含めて仕事と育児の両立に資するものであるため、現行の育児休業制度や短時間勤務制度の単独措置義務は維持しつつも、現在、努力義務となっている出社・退社時間の調整などに加えて、テレワークを努力義務として位置付けることとしてはどうか。
要するに、3歳未満の子どもがいる従業員で、現行の育児休業や短時間勤務制度の対象者が、保育サービスの利用など、在宅で集中して勤務できる条件が整えられれば、テレワークをすることができるよう、企業には努力義務が求められる方向性が課せられる ということです。これは2024年を目指して検討されています。
テレワークを努力義務にする目的は?
テレワークを企業の努力義務にしてさらなる推進を図ろうとする最大の目的は、止まらない少子化にあるでしょう。2022年の合計特殊出生率は1.26と、7年連続低下し、過去最低となりました。出生数も77万747人で過去最少でした。(※2)
この原因には、経済的な不安などから若者が家庭を持つことができない状況や、働く女性に家事や育児の負担が偏っていることなどが考えられています。これらの対策として働き方改革が推進されており、今回の議論もその一環であるようです。
テレワークを努力義務にする背景は?
一体なぜこのような議論が急に巻き起こったのでしょうか?
政府が2023年6月13日に開いた記者会見で、少子化対策のための「こども未来戦略方針」を発表しました。年間3兆5000億円規模の予算を投じて、児童手当の拡充など、子育て世代への給付策を多数盛り込みましたが、この一環として、育休取得率の向上やテレワークの推進など、子育て世代の働き方に言及しました。
推奨に従うことは必須?
同資料には、「テレワークは通勤時間が削減されることなどにより仕事と育児の両立のためにも有用」と明記されており、政府が積極的に導入を進めたい意向が読み取れます。しかしながら、医療業界や教育業界など、業種や職種によっては、テレワークの導入は難しい場合もあり、現段階ではあくまでもテレワーク制度導入は企業の努力義務として検討されています。
3歳までテレワーク推奨で働き方はどう変わる?
では、テレワークの導入が進むと働き方はどう変わるのでしょうか。そもそも、保育サービスの利用が前提とされていますが、現実的なのでしょうか?
保育園問題をどうクリアするのか
テレワーク勤務だと保育園入所に不利なのでは?と懸念する人も少なくないかもしれません。結論から言えば、在宅勤務であっても、子どもを保育園に入れることは可能です。むしろ、在宅勤務で赤ちゃんを笑顔であやしながら、PCを開いて仕事をするなんて修行でしかありません!今回検討されている施策案も、保育園を利用することが基本です。通勤時間がカットできる分、時短勤務でお迎えに行かなければならない……といった事態を回避できるのは助かります。自宅にいるなら子どもをみられるのでは?と言われていた時期もあったと容易に推測できますが、昨今ではテレワークを導入する企業も増え、在宅勤務と育児の両立の大変さは十分認知されるようになってきました。
また、政府も以下のように通達を行い、入所基準について注意を促しています。(※3)
居宅内での労働と居宅外での労働について、一律に点数に差異を設けている市町村がみられるが、居宅内で労働しているからといって、必ずしも居宅外での労働に比べて仕事による拘束時間が短い、子どもの保育を行いやすいというわけではないことから、居宅内での労働か、居宅外での労働かという点のみをもって一律に点数に差異を設けることは望ましくなく、(中略)仕事の内容・性質等を見て、個々の保護者の就労状況を十分に把握した上で判断すべきであること。『多様な働き方に応じた保育所等の利用調整等に係る取扱いについて』(内閣府/平成29年12月28日)
自治体によって基準や点数のつけ方が異なるため、一概には言えませんが、少なくとも今後はテレワークだからと言って減点、あるいは加点なしといった状況は減ってくるのではないでしょうか。
3歳までテレワーク、働く子育て世代の本音は?
『今後の仕事と育児の両立支援について(論点案)』では、子どもが3歳まではテレワークを推奨、とされていますが、やはり気になるのが3歳未満という条件です。実際に、このニュースはネット上で拡散され、「3歳の壁」「3歳までじゃ足りない」という声も多くみられたようです。
ママ向けWEBメディア『4yuuu(フォーユー)』(4MEEE株式会社)が、政府の方針が発表された後に実施した「在宅勤務に関する調査」によると、約8割のママが「在宅勤務、3歳までじゃ足りない」と回答しました。(※4)
「小1の壁」や多くの地域で学童がなくなる「小4の壁」の対策として、在宅勤務を望む声も少なくないようです。
政府としては、あくまでも現行制度の見直しであり、現行制度が3歳未満と定められているということですが、この「3歳の壁」については、今後どう議論が進められるか注目したいところです。
3歳までテレワーク推奨に対応するために必要な環境整備とは?
次に、テレワークの推進に必要な環境について、便利なツールや定めるべき規則などについてまとめます。
テレワークに必要なITツールとは
テレワークは自宅で勤務できて便利な反面、注意しなければいけないことや知っておいた方が良いこともいくつかあります。例えば、社員の勤怠管理や、どうしても希薄になってしまうコミュニケーション、情報漏洩のリスクなどが挙げられますが、これらの課題を解決するのがITツールです。
社員の勤怠管理ツール
『人事のミカタ』(エン・ジャパン株式会社)が従業員数300名未満の企業を対象に実施した「テレワーク」についてアンケート調査によると、テレワークの導入で難しかったこととして、1位が「テレワーク社員の時間管理(68%・複数回答)」でした。(※5)
企業は、1人でも従業員を雇っていれば、勤怠管理を必ず行わなければなりません。そこで多くの企業で活用されているのが、クラウド型勤怠管理システムです。クラウド型なら、インターネットに接続されていれば、どのデバイスからでも出退勤や勤務時間の申告ができ、これらのデータは一元管理が可能。企業にとっても業務効率化が進みます。自前でシステムを構築したり改修したりする必要もなく、新しい時代に対応した機能がどんどん実装されるのもメリットです。
テレワークでもコミュニケーションの活性化が図れるツール
テレワークを導入するにあたって懸念されるのが、コミュニケーション不足によるモチベーションや生産性、業務効率の低下です。これを解決するのが、『Zoom』『Skype』などのWeb会議システムや、『Slack』『Chatwork』などのビジネスチャットツール、『Backlog』『Jooto』などのプロジェクト管理ツールなどです。
在宅でも社内システムにアクセスできるリモートデスクトップ
社内PCにいつでもどこでも、どんなデバイスからでも安全にアクセスできるのがリモートデスクトップです。ストレスなくテレワークができる便利なツールです。具体的にどんなことができるのか、こちらでわかりやすく解説しています。
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テレワークに必要な社内規定・就業規則
厚生労働省の「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き」によると、「通常勤務とテレワーク勤務において労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます」と記載されています。
つまり、勤務場所が会社から自宅に変わるだけなら就業規則の変更は必要ありません。ただし、テレワークの導入によってフレックスタイム制を導入したり、通信費の負担や通勤手当の変更などが発生したりする場合は、そのことを就業規則に追加する必要があります。(※6)
そもそも、就業規則は、常時雇用する労働者が10名以上の企業に法的な作成義務がありますが、10名未満の企業は義務ではないため、もしかしたら就業規則そのものが存在しないかもしれません。しかしながら、10名未満の企業でもそれに準じるものを作成することが推奨されています。多様な働き方が今後ますます広がることは明らかであり、企業の規模問わず、テレワークを新しい働き方として導入するなら、そのルールは作成しておく方が良いでしょう。
テレワークは働き方の選択肢のひとつ
子どもが3歳までテレワークを推奨するという政府の動きについてまとめました。
コロナの影響も後押しもあって、テレワークはどんどん普及しています。2023年5月に公表された『今後の仕事と育児の両立支援について(論点案)』で、子どもが3歳まではテレワークを推奨するという議論がありましたが、これは、3歳まではテレワークしなくてはいけないということでも、この先ずっと3歳未満に限定するというわけではありません。
また、子どもが何歳までテレワークを推奨するのが適切かを議論するのも、仕事の内容や家庭の事情など、働く人によってさまざまなので本質的ではありません。
大事なのは、従業員がライフステージや育児・介護などの状況に応じて柔軟に働き方を選べて、無理なく働き続けられることです。そして、企業に求められるのは、そのための選択肢が用意すること、また、選択肢に応えられる環境が整えられていることです。それが、選ばれる会社、働き続けてもらえる会社となるために今後ますます重要な要素ではないでしょうか。