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建築設計業界でのリモート技術活用の今とこれから

建築設計業界でのリモート技術活用の今とこれから

リモートワークの実現が難しい業界の1つと言われる建築設計業界。その理由は特殊な仕事環境にあるようです。東京商工会議所が2022年5月に発表した「テレワークの実施状況に関するアンケート」では、建設業のテレワーク実施率は23.6%で、小売業に次ぐ最低水準でした。(※1)

具体的には「重たいソフトウェアを扱えるハイスペックなPCがリモートでは利用しづらい」「セキュリティ対策」などが課題として挙げられます。これらの課題に対し、リモートワーク推進で成果を挙げているNOIZはどのように取り組んでいるのか、今後の展望についてもお聞きしました。

NOIZ(ノイズ)

NOIZは、2007年に豊田啓介と蔡佳萱が設立、2016年より酒井康介が新たにパートナー として加わる形で、東京と台北の二拠点で活動する建築設計事務所。最新のデジタル技術と建築の知見とを駆使しながら、建築設計やインテリアデザインを中心に、都市計画から展示計画、インスタレーションまで多様な領域で実作を多く手掛ける。国内外から集まった多様な背景・スキルを持つメンバーによるチームで、新しい知識や技術のリサーチや導入などを積極的に行っている。

■Interviewee

安藤 寿孝 氏/Rheo一級建築士事務所主宰・NOIZ プロジェクトマネージャー


─────NOIZでは、現状、リモート技術をどのように活用されていますか?

リモート技術を大きく分けると2つあると思います。一つはコミュニケーションのための技術(人―人)です。もう一つはSplashtopのようにPC自体を遠隔で動かしたり、クラウドにアクセスするなどの技術(人―機械)です。

前者では、電話やZoom、Slackを使うことが多いのですが、伝えられる情報量や使用に適した環境に差があるので、シチュエーションによって使い分けています。

後者では、社外から社内の自席のPCにアクセスするという使い方の他に、社内の会議室から自席の数メートル先のPCにアクセスするという使い方をすることもあります。

「リモート」と聞くと、一般的には距離が大きく離れている状態を想定するかもしれませんが、上述のような近距離での利用もリモート技術の可能性の一つだと思います。距離の大きさはあまり関係がなく、状況に合わせた使い方をしています。

─────建築業界は建設現場とワークスペースが離れていることが多いと思います。この二拠点をリモートで繋ぐ場合、どのような働き方になるでしょうか。

現状では、リモートで建設や監理を完結するところまでは至っていませんが、ARを利用し配筋検査(鉄筋の配置位置の確認)をするなど、新しい技術が少しずつ取り入れられていますし、現場写真や進捗管理もクラウドを利用することでリモートで対応できる範囲も増えていると思います。

設計段階においてVRを活用したことがありますが、空間の広がりや見え方がクライアントと共有し易く今後も利用が増えていく技術の一つだと思っています。例えばそれぞれ離れた場所にいる施工者やクライアントに同時に体験してもらうことでリモートでも精度の高い計画内容・空間体験の共有ができるのではないでしょうか。

─────以前お話を伺ったときに(※2)、「働く場所が自由になり、計画地周辺にまとまった期間滞在することで、その地域への貢献ができる」といったお話がありました。具体的にどのような構想を描かれていますか?

建築設計の仕事では、設計の段階から竣工まで計画地に何度も足を運びますが、その時に少しでも長くその地域に滞在できないかと考えています。例えば週の半分でもその地域に身を置いて、実際のその地域への理解を深めたり、少し大袈裟かもしれませんが経済を回す一助になったり貢献ができると思うのです。

本来建築設計の仕事は、建物が竣工して終わりではなく、そこに人が住んだり集まったりすることで何か変化がある、それを確認したり、自分自身が参加したりする必要があると思います。設計して終わりにしたくないという思いもありますね。リモート技術の活用で、ある地域に滞在し、一定期間物理的に身を置くというコミットによって可能な貢献の可能性が増してきている気がします。

─────リモート技術を用いた働き方はコロナ禍で急速に普及しましたが、台風などの災害時の勤務への活用など、活用シーンはますます広げられるのではと考えています。リモート技術の活用が変える働き方として、どんなことを想定されますか?

建築業界に限ったことではないですが、そもそも日本は労働人口が減少しています。生涯にわたって一つの仕事を続けるあり方は必然的に見直され変化していくでしょう。

個々人が、色々な場所で様々な時間配分で複数の仕事をする。これは皆がそうする必要があるという意味ではなく、多様性の一つとして、そして上述のような理由によって増えていくだろうということです。そのような多様な働き方が重なり合い、束になることで社会課題を解決できるだけの力にもなりうると思います。

NOIZはそれぞれが働く場所や取り組み方を考え、実現していく文化・土壌があります。多様な人が集い自由な発想が生まれる源泉になっているのだと思います。

─────リモートワークが柔軟な働き方の実現に大きな役割を果たすのですね。

そうですね、出勤が必須となるとその周辺に住まざるを得ないですし、活動の制約を受けます。リモート技術を用いることで複数の仕事や役割を担うことが容易になります。

私は、自分が使えるエネルギーや時間を、少しでも社会を良くするために使えたらいいなと思っています。また各人が持っている100のエネルギーや時間のうちの5でも良いので持ち寄り合わせることで大きな力となると思います。リモート技術がそれを後押ししてくれるでしょう。

出典

※1
「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」2022年5月/東京商工会議所
※2
NOIZの創造性を支えるために。高性能PCのリモート操作で、多様な働き方の実現へ。

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