AR技術は、サービスやプロダクトに付加価値を加えるだけではなく、業務改善にも活かせます。AR技術を取り入れることで、顧客体験や満足度の向上につながり、企業目標の達成ひいては売上アップも期待できることから、活用方法を摸索している企業も多いでしょう。
AR技術の導入によって効果を最大化したい場合は、AR技術のメリットをうまく引き出せるよう、適切に理解することが大切です。
本記事では、活用事例をもとにAR技術の5つのメリット、デメリットを解説します。AR技術のメリットについて理解を深め、ビジネスへ効果的に取り入れましょう。
AR技術とは|現実世界にデジタル情報を付加して拡張する技術
AR技術とは、日本語で拡張現実と呼ばれ、現実世界に動画や画像、3Dコンテンツなどのデジタル情報を付加することで、仮想的に存在させる技術です。
たとえば、株式会社ニトリが提供する『NITORI AR』にはAR技術が使われており、スマートフォンを通して見る自分の部屋にニトリ家具の3Dコンテンツを表示できます。サイズ感を確認したり配置や色味を考えたりと、部屋との相性を確認してから購入を判断できます。実際に商品を使用するイメージがはっきりとした状態で商品を購入できる分、買い物の失敗を防ぎ、顧客満足度の向上を狙えるでしょう。
このように、現実世界にデジタル情報を組み合わせることで、従来はできなかったサービスの提供やアプローチを実現できるのです。
AR技術の仕組み
AR技術は、アプリやソフトを使って構築したデジタル情報を、ヘッドマウントディスプレイやスマートフォンなどのデバイスに表示させることで可視化します。
AR技術によってデジタル情報が表示される仕組みは、大まかに次のとおりです。
フェーズ | 仕組み |
---|---|
ARデバイスで空間や位置情報を把握する | デジタル情報を表示させるために、ARデバイスのカメラやセンサーを使い、対象となる位置や空間情報を把握する |
読み取った現実世界の情報とデジタル情報を組み合わせる | 現実世界の指定した箇所に表示したいデジタル情報を設定する |
ARデバイスにデジタル情報を表示する | ARデバイスを通して仮想現実にデジタル情報を表示する |
上記は、現在さまざまな企業が導入している一般的なAR技術の仕組みで、拡張現実を視認するためにはARデバイスが必要となります。
AR技術の種類
AR技術の「ARデバイスで空間や位置情報を把握する」フェーズに注目すると、次の2つの読み取り方があります。
・ビジョンベース型
・ロケーションベース型
位置や空間認識方法だけではなく、メリット・デメリットも異なるため、事前知識として習得しておくと、自社にAR技術を導入する際に役立つはずです。
ビジョンベース型
ビジョンベース型とは画像認識型とも呼ばれており、画像認識・空間認識技術を活用し、空間の範囲や位置を解析するタイプです。
ビジョンベース型には次の2つの種類があり、メリット・デメリットが異なります。
種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
マーカー型 | カメラでマーカーと呼ばれる画像やイラストなどを認識し、指定の範囲内にデジタル情報を表示する | ・マーカーで位置を指定するため、的確にデジタル情報を付加できる ・GPSが届かない場所でも活用しやすい | ・マーカーを設置する必要がある ・画像認識がしにくい場所で不安定になりやすい |
マーカーレス型 | カメラを通してリアルタイムに空間を分析し、マーカーの代わりとなる特徴点を把握してデジタル情報を表示する | ・マーカーを設置する手間がかからない | ・マーカー型よりも複雑で計算量が多いため、動作の安定性が低い |
提供したいサービスによって、どちらの種類が適しているかは変わります。
ロケーションベース型
ロケーションベース型は、GPSで取得した位置情報をもとにデジタル情報を表示するタイプです。
メリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
暗所でも安定して利用できる | GPSの精度によって安定性が変わる |
GPSだけでは、通信環境によって精度が大きく左右されてしまいます。そこで、端末の向きを測定する加速度センサーや傾きを検知する磁気センサーの活用によって、位置情報の精度を高めるのです。
マーカーを設置せずに正確な位置を特定できるため、位置情報を活用する観光情報サービスやゲームに向いています。
AR技術の活用事例からわかる5つのメリット
AR技術を活用するメリットについて、事例をもとに解説します。
・メリット1.顧客体験・満足度を向上させる
・メリット2.生産性・作業効率を向上させる
・メリット3.効果的かつ安全な遠隔サポートを実現する
・メリット4.技術継承・人材育成を効率化する
・メリット5.新たなサービスやマーケティングアプローチで販売促進できる
メリットに対する理解が深まると、AR技術の活用イメージが広がるはずです。自社にAR技術を導入したいとお考えの場合は、参考にしてください。
メリット1.顧客体験・満足度を向上させる
サービスやプロダクトにAR技術を応用することで、従来では実現が難しかった付加価値を加え、顧客体験や満足度の向上を図れます。
サイクロン掃除機で有名なダイソン株式会社は、2024年4月にAR技術を活用したアプリ『Dyson CleanTrace™(ダイソン クリーントレース)』を発表しました。ダイソンの掃除機にスマートフォンホルダーを装着し、アプリを起動しながら掃除をすると、掃除機をかけた範囲に色がつき可視化される仕組みです。
掃除した場所がひと目でわかるため、何度も同じ場所に掃除機をかけてしまうことを防ぎ、効率的な掃除を実現します。ゲーム感覚で、楽しみながら掃除できる点も魅力です。
現在では、あたり前のように各家庭に存在する掃除機も、AR技術を活用することで新たな付加価値を加えられます。利用者は今までにない体験に胸を躍らせ、より商品に価値を感じられるでしょう。
参考:ダイソン、掃除した場所をリアルタイムで可視化し、効率的な掃除を可能にするARツール「Dyson CleanTrace™」を発表|ダイソン株式会社
メリット2.生産性・作業効率を向上させる
AR技術は、サービスやプロダクトのブラッシュアップだけではなく、業務の生産性や作業効率の向上にも活用可能です。
アメリカの航空機メーカーであるThe Boeing Companyは、早い段階から業務にARを導入しました。貨物機の配線作業は、膨大な図面や回路図と実物を照らし合わせながら行う必要があり、手間と時間がかかります。当然ミスは許されないため、細心の注意を払いながら複数名で作業を進めるのが一般的です。
同社は、ARグラス上や音声で作業に必要な指示を伝達するシステムの活用によって、作業中に紙と照らし合わせる手間を削減しました。その結果、配線作業にかかっていた時間を25%削減し、エラーの発生率をゼロにできたと推定されています。
このように、AR技術は複雑な作業をサポートし、生産性や作業効率の向上に貢献することが可能です。
メリット3.効果的かつ安全な遠隔サポートを実現する
AR技術を活用すると、オフィスや本部から業務に対する遠隔サポートを行えるようになります。
ドイツやオーストリアを中心にハンバーガーレストランを展開する飲食チェーンPeter PaneのITスペシャリストを務めるPaniceus Systemsでは、AR技術による遠隔サポートを実践しています。
従来は、合計1,000台以上のPOS端末やパソコン、各種デバイスの遠隔サポートを行っており、サポート内容が多岐にわたるため業務が煩雑になっていました。そこで、より効果的かつ効率的な遠隔サポートを実現すべく、AR技術を使って遠隔サポートを行える『Splashtop AR』を使用しました。
Splashtop ARは、スマートフォンやタブレットのカメラ映像を別の端末に映せる製品です。AR技術によって、共有中の映像に線や矢印を描きこめるため、技術的なサポートを円滑にします。
Paniceus Systemsは、Splashtop ARを使用した結果、遠隔サポートによる各所のダウンタイムを50%削減することに成功しました。現地に足を運んでサポートする必要がなくなり、業務の効率化を実現しています。時間と費用面でのコストを削減できるようになったことは大きな成果でしょう。
この技術を活用すると、危険な場所での作業も安全な場所からサポートできるため、安全です。
Splashtop ARの活用事例は、以下の資料でもくわしく紹介しているので、ぜひご覧ください。
メリット4.技術継承・人材育成を効率化する
AR技術を活用すると、経験値を上げることで習得できていた技術の継承や人材育成を効率化できます。
東京都下水道サービス株式会社では、現場経験から培った技術をもつベテランのノウハウを、若手社員へどのように継承するかが課題でした。従来のように、文字や画像による講義だけではリアリティに欠けるため、理解しにくいデメリットがあったのです。
そこで、同社はAR技術を活用した映像教材の開発を行い、導入しました。ヘッドマウントディスプレイを装着することで、現場に行かなくても視界が360°現場の風景に覆われる仕組みです。ARを活用した映像教材によって、リアリティがあるなかで問題発見の演習を行えるようになりました。
本事例では、教科書や動画教材だけでは難しい体験的理解が促され、学習効率・効果の向上が期待できます。
経験値が必要な技術の継承が課題となる職種では、AR技術の活用によって、従来よりも効率的な人材育成を実現できるでしょう。
参考:3-2-5 AR技術を活用した効果的な人材育成|東京都下水道局
メリット5.新たなサービスやマーケティングアプローチで販売促進できる
AR技術を活用すると、新たなサービスやマーケティングアプローチを実現できるため、販売促進効果が見込めます。
家具量販店であるIKEAが提供するアプリ『IKEA Kreativ』には、AR技術とAIが搭載されています。部屋に実在する家具を仮想現実上で消してから、IKEA製品を配置することで、部屋の模様替えイメージを深められる仕組みです。部屋のなかに家具を配置するアプリは多々ありますが、実際の家具を消せるものは少なく、オリジナリティがあります。
このように、AR技術を活用することで新たなアプローチが可能となり、競合との差別化が可能です。新たなアプローチによって顧客体験や満足度が向上すると、顧客の購買行動を促せるでしょう。
AR開発を行うZappar社やマーケティング企業であるNeuro-Insighが発表したレポートによると、ARコンテンツは非ARコンテンツよりも70%記憶に定着しやすいことがわかっています。このメリットを最大限に引き出せると、従来よりも効果的なマーケティングアプローチを実現できるはずです。
参考:イケア、AIを活用した理想の空間をデザインできるデジタルツール「IKEA Kreativ/イケア クリアティーヴ」を日本でも導入|イケア・ジャパン株式会社
How augmented reality affects the brain|Zappar社
AR技術の最新動向
株式会社小田急エージェンシーは、AR技術と裸眼3D対応屋外広告媒体を掛けあわせて体験する広告の実証実験について発表しました。利用者が、裸眼3D対応屋外広告媒体に放映された映像内の二次元バーコードをスマートフォンで読み取ると、広告対象となる車を自由に動かせるといった体験です。
最近では、本事例のようにAR技術単体ではなく、VRや3D技術などを複合的に用いることで、新たなビジネスモデルやマーケティングアプローチが模索されています。
今後、ARを導入する際は、VRやMRなどの関連技術についても理解を深め、複合的に活用する視点をもっておくと、自社が思い描くビジョンをより高度に実現できるでしょう。
AR技術のデメリット
導入方法やデバイスによって差はありますが、AR技術の導入には多大な費用がかかります。
AR技術を活用して自社独自のサービスを構築する際は、高い技術力が必要となります。一般的な企業において社内人材で内製することは難しいため、開発会社に委託するか既存サービスを利用するのが現実的です。そのため、開発費や委託費といったコストが発生する点に留意が必要です。
独自アプリを開発するケースでは、費用だけではなく時間もかかるため、スピード感のあるリリースは難しくなるでしょう。
AR技術を導入する際は、費用対効果をシミュレーションしたうえで適切な方法やデバイスを選ぶことが大切です。
手軽に導入できるSplashtop ARで遠隔サポートを効率化
AR技術のメリットのひとつである「効果的かつ安全な遠隔サポートの実現」を手軽に享受できるのが、スプラッシュトップ株式会社が提供する『Splashtop AR』です。
Splashtop ARは、既存のスマートフォンやタブレット、パソコンにインストールするだけでお使いいただけます。遠隔地からの製品セットアップやトラブルシューティングなど、技術者が現場に足を運ばずにサポート可能です。
くわしい機能や特徴は、以下の製品資料からご確認いただけます。ブラウザから閲覧できるため、お気軽にご覧ください。
まとめ:AR技術のメリットを生かして新たな価値を提供しよう
AR技術は、サービスやプロダクトに付加価値を加え、業務を効率化するのに役立ちます。AR技術の活用により、顧客に新たな価値を提供できるでしょう。
まずはどのような目的でAR技術を導入したいのか、本記事で紹介した5つのメリットを踏まえながら整理してみてください。
・メリット1.顧客体験・満足度を向上させる
・メリット2.生産性・作業効率を向上させる
・メリット3.効果的かつ安全な遠隔サポートを実現する
・メリット4.技術継承・人材育成を効率化する
・メリット5.新たなサービスやマーケティングアプローチで販売促進できる
目的に合ったARデバイスやアプリ・ソフトを導入し、運用できれば、AR技術による効果を最大化できるはずです。
スプラッシュトップ株式会社は、手持ちの端末から離れた場所にいる技術者を遠隔で支援できるリモートサポートツール『Splashtop AR』を提供しています。視覚的にピンポイントで指示を出せるため、音声やテキストだけでは指示が難しい作業を効率化できます。まずは無料で製品をお試しいただき、AR技術のメリットを実感してみてください。