目まぐるしく変化する社会のなかで、製造業はさまざまな課題を抱えています。課題解決の手段として、工場のIoT化を考えている製造事業者の方もいるでしょう。IoT化によって課題を解決した事例を参考にすると、自社におけるIoTの導入イメージが膨らむはずです。
本記事では、IoT化による製造業の課題解決事例を7つ紹介します。事例からわかる成功ポイントも厳選して紹介しますので、自社にIoTを導入する際の参考にしてください。
製造業(工場)のIoT化とは
製造業(工場)のIoT化とは、工場の設備や機器、システムをひとつのネットワーク上で連携し、コントロールできる状態にすることです。IoT化された工場(スマートファクトリー)は、製造業が抱えるさまざまな課題の解決につながると期待されています。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、コンピュータ同士をつなぐネットワークのなかに、センサーやAIなどのIoT機器(モノ)を組み込むことを意味します。製造業にIoTを適用すると、従来では見えなかった工場のなかの情報を収集・蓄積し、活用可能です。
その結果、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンの見える化につながり、データをもとにしたコントロールや手作業の自動化・効率化を実現できるでしょう。
製造業のIoT化は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する手段のひとつです。以下の記事では、IoT化を含む製造業のDXの進め方を解説しているので、あわせてご覧ください。
製造業DXの重要性とは?DXのメリット・デメリットと導入手順を解説
製造業(工場)の課題とIoT化による解決事例7選
製造業(工場)は、さまざまな課題を抱えており、IoT化をはじめとするDXによる解決が求められます。ここからは、経済産業省が発表した「2023年版 ものづくり白書(令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策)」から読み取れる製造業の課題を、IoT化によって解決した事例を7つ紹介します。
・事例1.ロボットの導入と連動した教育改革で人手不足を解消
・事例2.AIを使った生産管理システムによるデータの可視化で価格改定に成功
・事例3.デジタル・ファクトリーの構築で市場の変化スピードに対応
・事例4.IoT化でサプライチェーンのつながりを強化
・事例5.業務の見える化で若手へのスキル継承を実現
・事例6.データ活用でサプライチェーンを最適化
・事例7.デジタルツインを活用し脱炭素への取り組みを展開
事例を参考にすることで、IoT化による自社課題の解決イメージを描きやすくなるでしょう。
事例1.ロボットの導入と連動した教育改革で人手不足を解消
製造業では、人手不足が課題となっています。
経済産業省が発表した「2022年版 ものづくり白書(令和3年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」によると、2002年から2021年の20年間で製造業における就業者数が157万人も減少しています。また「2023年版 ものづくり白書(令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」では約11万人の人手不足が指摘されており、製造業の人手不足は深刻です。
静岡県浜松市で自動車向け金属パイプ加工を行っている国本工業株式会社は、ロボットの導入と教育改革によって人手不足の解消に成功しました。
参考:2023年版 ものづくり白書(令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要|経済産業省
事例2.AIを使った生産管理システムによるデータの可視化で価格改定に成功
製造業は、原材料価格やエネルギー価格の高騰、為替変動といった社会情勢の変化を要因としたコストの変動が起こりやすい業種です。「2023年版 ものづくり白書(令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」によると、2022年上半期は、原料価格の高騰やその他要因の影響で製造業の景況感が低調になっています。このように製造業では、やむを得ない事情によるコスト高騰に対応しなければなりません。
新潟県加茂市で金属加工を行う株式会社有本電器製作所は、AIの導入による生産管理システムの構築で工場のIoT化を進めたことで、副次的な効果として価格改定を成功させました。
株式会社有本電器製作所の事例
株式会社有本電器製作所は、半数以上が60歳以上であり、多品種少量生産をベテランの従業員が支えていました。各工程の作業日程を把握できておらず、納品完了の目途を見通せないまま納期を管理していたため、納期遅延が頻発していたのです。そこで、作業工程の可視化に向けて、ITベンターと協力して現場の声を取り入れながら生産管理システムを構築しました。AI音声認識技術を活用しているため、従業員はシステムの理解や操作方法を覚える必要がなく、高齢のベテラン作業員も使いやすい点が特徴です。
生産状況だけではなく、受注量や製造原価・販売価格といったあらゆるデータを蓄積・可視化できるようになり、経営改善にも活用することに。時間あたりの付加価値額を算出して取引先に提示することで、適正価格を交渉しやすくなりました。IoT化によって付加価値額が20%も上昇したほか、適正価格の実現という副次的効果も得られた成功事例です。
参考:デジタル化で生産性向上を図る中小製造業|日本政策金融公庫総合研究所
事例3.デジタル・ファクトリーの構築で市場の変化スピードに対応
経済産業省が発表した「2016年版ものづくり白書」の「10年前の製品ライフサイクルの比較」では、「長くなっている」よりも「短くなっている」と答えた企業が多く、製品ライフサイクルの短縮化が起こっていることがわかります。その要因として、大きく次の2つが挙げられています。
・技術革新のスピードが速く、製品の技術が陳腐化しやすい
・顧客や市場のニーズの変化が速い
製造業では、顧客や市場ニーズの変化スピードに応じた製品ライフサイクルの短縮化への対応が必要です。
ダイキン工業株式会社では、工場IoTプラットフォームを活用したデジタル・ファクトリーの構築によって、市場スピードの変化に対応しました。
ダイキン工業株式会社の事例
従来、需要変動に柔軟に対応できるような生産体制を構築していたものの、顧客や市場ニーズの変化スピードの上昇に対応すべく、マス・カスタマイゼーション(※)を念頭に置いた生産を目指すことにしました。工場内のすべての設備をネットワークでつなぐプラットフォームを構築し、あらゆるデータの収集と可視化を実行。これにより、現場の課題解決スピードが向上し、ニーズの変化に対応できるようになりました。
※マス・カスタマイゼーション:大量生産と受注生産を掛けあわせ、顧客ニーズに対応しながら大量生産を行う生産方式
参考:製造業DX取組事例集|経済産業省
事例4.IoT化でサプライチェーンのつながりを強化
近年、新型コロナウイルスの流行やロシアによるウクライナ侵攻など、予測困難な事態が続いています。不測の事態が起こった際、調達先や生産拠点を海外に置いている場合は、サプライチェーンが寸断されるリスクがあるため対策が必要です。
岐阜県関市で部品製造を行う中央工機株式化会社は、IoT化によって協力工場を含むサプライチェーンを強化し、コロナ禍でも製品を供給し続けられる体制を構築しました。
中央工機株式化会社の事例
中央工機株式化会社は、1970年代にいち早くコンピュータを取り入れた生産管理を行ってきました。継続的にデジタル化を推進し、2018年にクラウド型の生産管理システムへ移行。クラウド型は、端末さえあればネットワークを通じてどこからでもアクセスできる利点があります。そのためコロナ禍では、端末の整備によってリモートワークを実現できました。この方法を応用すると、11社の協力工場も生産管理システムにアクセスできると考え、ITベンダーと協力して新たにシステムを開発。協力工場には無償でアクセス権限を付与し、在庫データを入力してもらう体制を整えました。その結果、在庫状況が可視化され、材料の欠品防止と効率的な使用が可能になったのです。不測の事態でも供給を絶やさないサプライチェーン全体の強化につながっています。
参考:デジタル化で生産性向上を図る中小製造業|日本政策金融公庫総合研究所
事例5.業務の見える化で若手へのスキル継承を実現
日本の製造業は、熟練技能者の支えによって高い生産性を維持できているケースがあります。一方海外では、優秀な人材に頼るのではなく、IoT化やデジタル化によって生産能力を標準化して対応しています。
今後も少子高齢化が進む日本では、熟練技能者の退職に備え、IoT化による対策が求められるでしょう。
株式会社今野製作所は、IoT化によって工場内の業務を見える化し、若手へのスキル継承を実現しました。
株式会社今野製作所の事例
株式会社今野製作所は、重量物をもち上げるときに使用するジャッキという油圧機器を製造しています。さまざまな課題を抱えるなかで、3名の熟練技能者への依存度が高く、若手へのスキル継承が問題となっていたのです。そこで、IoT化とともに若手の人材育成に着手しました。ホワイトボードを活用した情報共有の徹底と業務の見える化を行ったうえで情報システムを導入し、システムの浸透を実現。手順の整理や業務改善によって業務が標準化され、若手へのスキル継承も容易になりました。効果を実感した従業員は、自主的にIoT化と業務改善に勤しむようになり、自発的に人が育つ場の形成につながっています。
参考:2018年版ものづくり白書|経済産業省
事例6.データ活用でサプライチェーンを最適化
海外では、データの連携によって企業の枠を超えたサプライチェーンの最適化が進んでいます。日本でも近年のデジタル化により、一部の工程を外部に委託するなど水平分業への移行が進んでいますが、「2023年版 ものづくり白書(令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」によると、日本で企業間のデータ連携・可視化ができている製造事業者は2割程度に留まっています。
サプライチェーンの最適化のためには、データの連携・可視化を浸透させる必要があるでしょう。
駿河精機株式会社では、既存工場をIoT化することで、サプライチェーンの最適化に成功しました。
駿河精機株式会社の事例
駿河精機株式会社は、工場や工程ごとに設計生産情報を管理しており、熟練技能者に頼らなければ最適な加工条件設定を行えない状態でした。そこでIoT化を図り、国内外や外部の向上と加工データを共有できる体制を構築。熟練技能者たちの技を共有できるようになったことで、各拠点で加工の高品質化を実現しています。さらに、AIの活用によって最適な加工条件を自動生成できるようになりました。IoT化によりサプライチェーンの最適化を果たし、市場に合わせたフレキシブルな生産体制を構築した事例です。
参考:EBPMの試行的検証(Ⅰ)モデル事業(ICTの活用)|経済産業省
事例7.デジタルツインを活用し脱炭素への取り組みを展開
製造業では、カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素化が求められています。経済産業省が発表した「令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策」によると、サプライチェーンの安定化に向けたこれからの取り組み内容のうち「脱炭素への対応」を挙げている製造事業者は53.6%にものぼり、多くの企業が課題と捉えているといえるでしょう。
株式会社日立製作所は、IoTを活用した生産改革の経験をもとに、脱炭素の課題解決に挑んでいます。
株式会社日立製作所の事例
株式会社日立製作所では、IoTを活用した生産改革に取り組んできました。そのなかでも、工場内で収集したあらゆるデータから、仮想空間に現実世界を再現するデジタルツインは、脱炭素の取り組みにも役立てられています。工場内の900ヵ所に設置されたセンサーが電力の使用状況や供給情報を見える化し、エネルギーコントロールに活用しているのです。デジタルツインでシミュレーションしながら、適切な設備導入の決定やオペレーションの制御を行っています。
参考:令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策|経済産業省
事例からわかる!製造業のIoT化を成功させるポイント
紹介した7つの事例から、製造業のIoT化を成功させて課題を解決するためには、次の3つのポイントが重要であるといえます。
・変化に対応できる基盤をつくる
・スモールステップで取り組む
・デジタル人材の育成体制を整える
ポイントを押さえたうえで準備を進め、IoT化の成功を目指しましょう。
変化に対応できる基盤をつくる
IoT化は、現場環境をガラリと変えることがあります。なかには、熟練技能者が対応できない、システムに慣れず生産効率が落ちるケースもあり、課題解決につながらないおそれがあるでしょう。
こうした事態を防ぐためには、変化に対応できる基盤の構築が必要です。
株式会社今野製作所は、従業員が変化に対応できるよう、IoT化を進める前に情報共有基盤を構築しました。ホワイトボードに案件情報を書き出し、共有する癖をつけておくことで、IoT化後データベースに入力するようになっても違和感なく移行できるようにしたのです。
スモールステップで取り組む
IoT化は費用がかかるため、機器の導入や環境構築を一度にすべて行うことは難しいでしょう。導入がうまくいったとしても、社内に浸透するまでには時間がかかる点にも注意が必要です。
そこで、段階を踏みながらスモールステップでIoT化を進めていく方法があります。
株式会社有本電器製作所は、70年以上の歴史をもつ金属加工業者で、高齢の従業員が数多く在籍しています。そのなかでIoT化を進めるためには、段階を踏んだ導入が必要でした。そのため、製造業に特化したITベンダーに協力を仰ぎながら、現場の声を取り入れつつ、スモールステップで環境を構築したのです。
デジタル人材の育成体制を整える
独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した「ものづくり産業のデジタル技術活用と人材確保・育成に関する調査結果」では、IoT化の課題として「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」が挙げられています。社内にデジタル人材が不足している場合、導入期には外部人材の手を借りることはもちろん、導入後は社内人材の育成も不可欠でしょう。
国本工業株式会社は、人材確保の手段として工場にロボットを導入しIoT化を進めるなかで、デジタル人材を育成する教育体制の構築にも着手しました。また、能力や経験に賃金が反映される制度によって処遇を改善し、育成した人材を定着させる仕組みも整備しています。
Splashtop ARによる製造業(工場)の課題解決案
『Splashtop AR』はIoT化の一端を担うツールとして、製造業の課題解決を促します。Splashtop ARは、現実世界に仮想世界を重ねて表示するAR技術を活用した遠隔支援ツールです。
たとえば、若手技能者の視点を熟練技能者に共有することで、遠隔地にいる熟練技能者から画面上で視覚的な指示やアドバイスをもらえます。音声やテキストでは伝えきれない細かなニュアンスをつかめるようになり、人材育成の効率化が期待できるでしょう。また、ひとりの熟練技能者が同時に複数の若手技能者の指導にあたれるため、人材不足にも対応できます。
このように、Splashtop ARは、製造現場における熟練技能者のスキル継承の課題解決をサポートします。無料トライアルでお試しいただき、導入を検討してみてください。
ARを活用した遠隔支援の方法は、以下の記事でも紹介しているので、参考にしてください。
ARによる遠隔作業支援とは|メリットと導入の注意点、活用できる補助金を紹介
IoT化の事例を参考に製造業(工場)の課題解決を進めよう
製造業はさまざまな課題を抱えていますが、IoT化によって解決につなげられます。ただし、IoT化を成功させるためには、次の3つのポイントを押さえる必要があります。
・変化に対応できる基盤をつくる
・スモールステップで取り組む
・デジタル人材の育成体制を整える
基盤の醸成や育成体制の整備に目途がついたら、スモールステップでIoT化を進めてみましょう。
スプラッシュトップ株式会社が提供する『Splashtop AR』は、製造業のIoT化の一端を担う遠隔支援ツールです。熟練技能者のスキル継承や若手育成に活用できるので、ぜひ無料トライアルからお試しください。